•  地域の自立を成し得ることができたら、私達にはどんな未来があ
    るのだろうか?と私は多田さんに質問した。
    「まずは自立した個が有機的につながり循環型社会が出来上がるこ
    とが先決です。社会を循環させるのは個の選択によるもの。
    個が何かに依存していては駄目なのです。それぞれの
    個が、多様性を持って自立していることが必須条件で
    す。その次は、官主導の、横のつながりが薄い、分断
    された今の社会から脱却し、小さな自立した社会同士
    が繋がって、その多様な動きが新しい日本の形を作り上げ
    る。つまり、自立した地域が有機的につながるのです」。
     それは一体どういうことなのだろうか?もう少し説明が必要そう
    だ。
    「有機的という言葉は、それ自体が生物のように存在していること
    を指します。生物は体の各要素が複雑に絡み合い、その動き全体が
    ひとつの個体となっている。先程も言ったように、これからは、ひ
    とつの国を見たときに、多様な個から地域社会ができ、それが有機
    的につながりあった集合体になる気がします。今のような、官主導、
    大企業主導の世の中ではなくなるということです」。
     つまり、無機的な、均一な社会ではなく、バラエティに富んだ社
    会、均一でないものを受け入れる社会ができるということか?
     「それだけではありません。多様性とは、自然そのものであり、
    必ず守らなくてはならないものです。多様性がなくなると、
    世界は必ずおかしな方向に向かってしまう」
    有機的つながりと多様性、自立。多田さんが出したこ
    れらのキーワードは、私達が今抱えている様々な問題
    を解決するのか?
     その答えに至る前に、「種の自立」の話をしなくてはな
    らない、と多田さんは言った。
    種の自立とは何なのか?答えはまた、次号へと続く。
    
  • この車は過疎地の農業従事者向けに開発されたというから、まさに
    地域再生を目指した車であり、地域という小さな輪の自立を後押し
    するものでもある。
    なるほど、これが私が最初に持った「EVと自立の間に
    どんな関係があるのか」という問の答えなのだ。
    
     しかしここでシンプルな疑問がある。何故「地域の
    自立」が必要なのか?
     その私の問いに「地域での”循環型社会”成立に近づくからです
    」と多田さんは即答した。循環型社会とは、官や大企業に依存せず、
    その社会が「目に見える範囲のものだけで」循環していることだ。
    これは、あらゆるものの行程を確認していけるので、安全を担保で
    きるという恩恵がある。
     地域が小さな循環型社会として自立していることには、もうひと
    つ大きな利点がある。それは、地域の「多様性」が生まれることだ。
    たとえば3.11後に騒がれた電力危機は、ひとつの大きな体制に
    すべてが依存しているからこそ起こるもので、多様であれば、その
    影響は最小限で済むのである。つまり、これもまた安全を担保する
    ものなのだ。
     野菜の在来種と地産地消で地域再生を果たし、現在メディアで大
    きな注目を集める山形県のシェフ・奥田政行氏がこんなことを言っ
    た。
    「その土地その土地で、地域再生の形は変わる。土地の
    個性が違うのだから、皆同じにはならない」
     これこそが、多様性なのだ。つまり地域の自立は多
    様性そのものということになる。そして、人々の生活や
    農業と直接繋がっているエネルギーの自立は、地域の多様
    な自立にとって大きな後押しとなるのだ。
    
  • 
    「EVは、地域の”エネルギーの自立”への大きな足がかりとなる
    んです」。
     エネルギーの自立。近年電力自由化に関する論議が活発化
    しているが、それに関係するものだろうか。エネルギー
    の自立とEVと地域活性。この間にはどんな関係性があ
    るのだろうか?
    
     EVhondaの社長である本田昇氏が、こんな興味
    深いことを言ったそうだ。
    「EVとはElectric Vehicle(乗り物)のこと。
    つまり、車に限った話ではないんです」
     EVにする対象は、耕うん機や農機具も入ってくる。この時、
    地方に豊富にある地域資源、たとえば川の水を使った小水力発電
    などを電力源にすれば、農業従事者の電気代の負担を軽くするこ
    とにつながる上に、電力会社への依存から脱却し、地域の自立に
    貢献することができる。
     もっと言うと、EVはエネルギーの発送電にかかわる法的な厚
    い壁を乗り越える可能性も含んでいるという。多田さんは続ける。
    「地域資源からの発電で得た電気を、EVに蓄電して別のところ
    へ移動させれば、それは小さな規模での”発電”と”送電”
    になりますよね。地域を賄うなら、これで十分対応でき
    るかもしれません」
     実際にそういう動きは、国内でもすでに出てきてい
    る。関西の自動車整備会社8社が共同設立した「EV
    ジャパン」という企業がある。ここが開発した農業用
    EV三輪車は、屋根のかわりに太陽光パネルを搭載してい
    て、充電した電力を別の場所に持って行って、EV車に接続して
    動かすことができる。
    
  •  10月某日、多田さんは「てづくり電気自動車講習会」にいた。
    これは新潟からEV改造車業界を牽引する「EVhonda」と
    いうローカル企業が主催した、普通車をEV車に改造するための
    講習だ。三日間かけて行われる本格的なもので、多田さ
    んもその間近くのビジネスホテルに泊まりこみで取り
    組んだ。講習会は盛況で初の女性参加者もおり、EV
    車への関心の高さがうかがえた。
     私は、多田さんから聞いていた「自立と地域活性」と
    いうキーワードの答えがここにあると言われ、興味を持って
    講習会の感想を待っていた。まず持っていた疑問は、「自立とE
    Vに何の関係があるのか」という事より前に、「手作りで普通車
    をEV車に改造することなどできるのだろうか?」
     ということだった。一般人でも参加できる講習会が開かれると
    いうことは、私のような普通の人間でも作れるようになるのだろ
    うか?
     「結論からいうと、誰もが手作りでやれるほど簡単なものじゃ
    なかったです。道具や材料もありあわせで特別なものは何もあり
    ません。だからこその難しさも感じました。三日間かけて必死で
    やって、それでもこの技術を素人が習得するには程遠かったです
    ね」
     しかし、これは勝機なんです、と多田さんは言う。EV車
    への改造作業をその地域に育った小規模の専門業者が請
    負えば、そこに新たな雇用が生まれ、地域の活性化に
    も繋がる。この講習会のように、技術を個人単位で伝
    えていくことには大きな意味がある。その技術を受け
    取った人にとって、難しいからこその勝機となるのだ、と
    多田さんは続けた。
     さらにEV車への改造には、地域にとってもっと大きな貢献が
    あると多田さんは言う。それは一体どういうことなのだろうか?