明治大学が一般向けに公開している「アグリサイエンス講座」を受講しています。
去る5月26日の土曜日は、農芸化学科の中林准教授の授業だったのですが、とてもユニークで面白い授業でした。
今は猫も杓子も有機農法で、化学肥料を排除するむきが多いのですが、
そんな聴衆を前に、化学肥料についての歴史と効用について熱く語ったのです。
それも90分で語りきった!
(しかもなぜかオーガニックなBGMつき。タイのガムラン音楽や波の音など…)
その内容をここですべて紹介するのはとても無理な話なのですが、
気になったキーワードだけ紹介したいと思います。
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・17世紀ヨーロッパの有機農業は「うんこ(肥料)中心農業」
・鉱物肥料(石灰など、無機物を主成分とする肥料)の奪い合いが戦争をも生んだ。
・うんこでも鉱物でもなく空気から作られた肥料が「窒素肥料」で、作られた農産物から体内を通って空気中に多く循環している。現在では、3回深呼吸したうち1回の呼吸に含まれる窒素が化学肥料によって作られた窒素由来である。
・化学肥料がなければ、今の人口の10分の1しか食物を賄えない。
・ヨーロッパの人たちが主食としていた麦はアミノ酸のバランスが悪く、肉でアミノ酸を補給せざるを得なかった。
日本人はアミノ酸バランスのよい米が主食だったから、家畜を飼わずにすんだ。
・これからは草しか食べない「ダチョウ」の時代。
牛や豚などの家畜は穀物を食べるから、人間と競合してしまう。
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などなど、増え続ける世界の人口にどうやって食料を供給するか、
そのために化学肥料がいかに重要な役割をはたしているかを勉強できました。
「最近は学生を集めるためにカッコつけて「環境」と付けたがるが、「農学」でいいんだ!」なんて言葉も印象的でした。
(肥料の歴史についての基礎知識を簡単に下にまとめてあるので、うんこ?窒素?鉱物??な方はそちらも読んでみてください)
有機農業は科学ではない、いつでも誰にでも再現できる方法がないから、という言う人がいます。
それは真理でもあり、今の有機農法から作られる農産物では世界の人口の10%しか賄えないのも事実です。
本当に有機農法は最善の農法なのか?
有機農法を勉強している私は、その事を常に念頭において、自分に問い続けなくてはなりません。
いつかアグリキュレーターとして、この先生に講演を頼むだろうと確信し、
早速名刺交換をしました。
講演が実現した折には、皆さん是非この興味深い話をどっぷりと聴きにきてください!
もっと濃くて深~いお話を楽しめると思います。
◆◆超略版・農業肥料の歴史◆◆
◯17~18世紀:三圃式農業から有機肥料(うんこ)の時代へ
農業革命により、休耕地を牧草栽培に使って一年を通して家畜を飼育し、その糞を使った有機農業が可能となった。(世界人口9億人に)
◯19世紀:無機肥料の時代
チリ硝石(チリ)、カリ鉱床(ドイツ)、リン鉱石(アメリカ)など、次々と鉱物(無機)肥料が発見された。
産業革命の動力により鉱物肥料の掘り起こしができるようになった。(世界人口16億人に)
◯20世紀:化学合成肥料の時代
1909年、ドイツのハーバーとボッシュが空気からアンモニアを合成したことが化学肥料時代の幕開け。
この二人は「空気からパンを作り出した人」と言われている。
(裏話:化学者のハーバーはこの後毒ガス開発に関わり、妻がこれを苦に自殺。
本人は化学肥料の開発でノーベル賞を受賞するが、ユダヤ人であったことからドイツを追放されてスイスで客死した)
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