「平成24年度 第10回農山漁村コミュニティビジネスセミナー ~地域資源活用編2~」というセミナーに行って来ました。
「鳥獣被害対策と獣肉を活用した地域づくり」とい副題もついています。
鳥獣被害対策の事例として、鹿肉を料理素材として捉える試みを紹介するものです。
つまり、前に紹介した「ジビエ料理」ですね。
今回のセミナーは、鳥獣被害対策としての鹿肉料理を地域活性に活かすために、
いかにしてそれを地域に根付かせ、地元の人材や資産をつないでいくかについて、
滋賀県で実際にそのプロジェクトに取り組んでいる滋賀県湖北農業振興事務所農産普及課の松井賢一氏が、
その具体的な事例から鹿肉処理の現場まで、講演するだけでなく実演もするというなかなか充実した内容です。
ではまず、皆さんきっと興味がお有りでしょう、鹿肉処理の実演の話から。
本当は写真つきでご紹介したいところですが、さすがにショッキングなものもあるので自重します。
まずは内蔵を抜かれただけの若い鹿が、ブルーシートをかけたテーブルに上に登場します。
後ろ足のかかとから下を切り離します。アキレス腱のあたりは、コラーゲン製造メーカーに送っているそうです。
解体の間、講演に多く集まっていた女性陣がシャッターをバシバシ切る音が響き渡ります。
(私も負けじと写真を撮りました。)
器用に皮をはぎ、あっという間に解体は進んでいきます。
解体途中なのにすでに美味しそうに見えるロースの切り出しはもちろん、
頭蓋骨をべきっと割って、脳を取り出すところまで、
余すところなく見学することができました。
最後には、ブルーシートの上に、骨や皮や肉や手をつけられなかった顔などがずらっと並び、
私は最前列だったので鼻先30センチのところでそれを見ました。
試食はレバーペースト、フィレのロースト(これは年をとった個体と若い個体の二種類)、
心臓・腎臓の燻製、ロースミンチのハンバーガー、ロースの赤ワイン煮、ロースステーキのフォアグラ乗せなどなど。
今解体を見たところで食べるのですから、まさに「命をいただく」を実感しながらの試食です。
味のほうは、レバーペーストは獣の匂いが残っていて、野性的かつ個性的な味。
その他のものは高タンパク・低脂肪な鹿肉の特性がそのまま出たのか、
ちょっとパサパサして食べづらいものが多かったです。
解体したての若い個体の肉をカフェのシェフが料理してくれたものは美味しかったですが、
今回講演してくださった松井さんが滋賀から持ってきてくださったものは、やはり味が違うな、という印象でした。
松井さんは言ってみれば役所の方で、シェフではありません。この味の違いが如実に物語るものは、
「ジビエ料理はプロの手にかからないと素人には手におえない」ということだと思いました。
たとえば鹿の撃ちとり方ひとつにしても、撃って30分以内に血抜きをすることが必要で、
心臓の左35度下45度から一気にナイフを指して心臓の動脈を切らなくてはいけないそうです。
そうすることで血が一気に出るし鹿も楽に死ねるとのこと。
これに失敗すると血が筋肉などにも残って臭くなるし、何より鹿が長い時間苦しむそうなんです。
他にも肉の匂いを消したり柔らかくするために、トレハロースという添加物が必須になるなど、
普通に流通している食肉を使った処理や調理とは全く違うことが皆さんにも想像できると思います。
松木さんは猟師さんたちを説得するところから始まり、メニュー開発や戦略的な宣伝文句、果ては実際の調理など、
実際にジビエ料理として提供するまでの道筋をどう作るかに孤軍奮闘されていて、
今回はその苦労話が多かった印象があります。
実際、猟師を説得するのには自分で解体ができねばならず、
シェフと話をするためにフランス語の料理用語を勉強しなくてはならないとか、
相当の苦労をなさっているようでした。
その上鹿肉をジビエ料理として売り出すためには、フードコーディネーターを雇ったり
有名シェフのレシピを買ったりと、けっこうな費用がかかってしまいます。
それでも、害獣駆除は地域を守るために最も大切なことです。
松木さんは、「田んぼで鹿を見かけなくなった」という農家の方の言葉を励みにして、
駆除のためにかかる費用をなんとか鹿肉の販売で賄おうと、営業を日々頑張っているそうです。
前に「ジビエが地方を救う」という記事で紹介した長野の藤木さんの事例は、
シェフが中心となってプロジェクトを動かしているのでメニュー開発にお金がかからないという決定的な利点があります。
この場合は、プロジェクトのキーになっているのがシェフで、
輸入鹿肉より害獣駆除で国内から出る鹿肉のほうが安く手に入るということと
東京から長野に移り住んで地域活性のために何かしたいという思いが動機になっていることがとても有利に働いています。
滋賀県の松木さんのように、言ってみれば「ジビエの外の人」が中心となるものとは、
プロジェクトを軌道に乗せるための労力が全然違ってきます。
つまり、ジビエ料理で地域活性化を実現するためには、「どういう人を巻き込んでいくか」がポイントなのです。
キュレーターまたは地域活性化コーディネーターは、どういうメンバーを繋ぐかが一番重要な仕事です。
今回、中心に人いるが変わるとこんなにもアプローチが違ってくるのだと、改めて痛感しました。
藤木さんの例では、藤木さん自身がいなくなってもいいように、
開発したレシピの保存や食品加工のマニュアル化、組織化を図っていました。
活性の輪がずっと動き続けられるようにプロジェクトを作る。これもまた重要なことです。
滋賀県での松木さんの取り組みが大きな成功を収めることを、心から願っています。
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