農業生物資源研究所のオープンカレッジで聞いた、遺伝子組み換え技術を使った機能性農作物の話を紹介しましたが、実はそこでさらなる驚きの話を聞きました。
その名も「究極の家畜」!
カイコといえばカイコ蛾の幼虫。しかし養蚕用で馴染みのあるカイコは自然のものではなく、
中国で5000年の年月をかけて品種改良された究極の家畜だというのです。
昆虫であるカイコがなぜ家畜なのかというと、その理由は以下の点です。
・急速に成長する。(生まれてから20日で体重が1万倍)
・生糸と言う形で高速に大量のタンパク質をつくる能力がある。
・活動が緩慢なので逃げ出さない。(成虫(蛾)は飛べない)
・何より人の世話無しには生きられない。
・成虫になるとすぐ交尾して卵を生むと死ぬ。
カイコは中国・韓国では絹糸用だけでなく食用として育てる場合もあるそうですが、
講師の方は、「今や家畜と言うより優れた生物工場」とまで呼んでいました。
その家畜カイコも現代では、遺伝子組み換えでさらなる「究極の家畜」へと変化を遂げています。
現在注目を浴びているのは「光る生糸を生成するカイコ」。この生糸は引っ張りだこで、AKB48に着せようと企画したものの生糸が足りずにボツになったなんて裏話も聞きました。
医療分野では、人工血管の素材となる生糸を生成するカイコの研究も進んでいるとか。
そのカイコが吐く生糸は生体親和性が高く、細くても詰まりにくく、
本当の血管に変わる人工血管を作ることができるというのです。
しかし一方で、今日本では養蚕農家が激減しているという現状もあります。
なのでこちらの研究所でも、早急に付加価値の高いカイコの開発をする必要があると考えているようですが、
せっかく新たなカイコが出来ても量産育成できる農家がいないと宝の持ち腐れになってしまうという点は問題です。
また研究に没頭するあまり、研究者にコスト低減や特許戦略という視点があまりないということにも危惧を感じました。
このような重要な技術は、単に技術を追求するだけでなく、
国家戦略としてどのように技術を守るのかということもセットで考えておかないと、
結局はすぐ海外の巨大グローバル企業に独占されてしまうのではと心配です。
カイコは生糸という形で私達の衣服を長い間支えてきました。
せめて、自分の作る物は自分で育ててみませんか?という農作物と同じような問いが
そこにはあるのだとも気づきました。
食物ではありませんが、生糸や綿は農産物として捨ててはおけない分野です。
遺伝子組み換え技術に警鐘を鳴らす立場をとってきた私ですが、
直接口に入れない、今回のカイコのような遺伝子組み換え技術については「有りかも」と思い始めています。
なんといってもノーベル賞受賞で大変話題のiPS細胞も遺伝子組み換えでつくる訳ですし、
医療分野のものということで大変慎重に扱われている点も評価するポイントです。
しかし、食品となった途端に規制が緩くなることは依然危険を感じます。
特に前回ご紹介した「食べる薬」である米は、医薬品ではなくいわゆる特保扱いになる。
より簡単に消費者の口に入るわけです。
研究者の話で最も強く印象に残ったこと、それは
「本気でモスラを作りたいと思っている」という言葉でした。
若い方はご存知かどうかわかりませんが、日本の特撮映画を代表する、巨大な蛾の幼虫(と成虫)のことです。
もちろん誇張した言い方でしょうが、あの東京タワーにモスラが作った大きな繭みたいなものを作りたいのだそうです。
そのぐらい、遺伝子組み換え技術は進んでいるということなのでしょう。
研究所では、モンスターカイコと呼ばれている原因不明の奇形カイコが生まれているそうです。
写真も見たのですが、巨大な足を持ったグロテスクなカイコでした。
やはり、遺伝子組み換え技術のこういった側面は決して忘れてはならないと思います。
口に入る農産物については、特に。
RSS feed for comments on this post. / TrackBack URI