随分前の日経ビジネスONLINEの記事らしいのですが、東京大学の川島博之准教授の話を見つけました。
この方、覚えている人いるでしょうか?
去年の6月27日に私がブログに書いた「デフレの原因は農学にある?」という
記事で紹介した方です。
氏のおおまかな紹介などは前の記事に書きましたので、興味ある方は読んでみてください。
今回のお話は「世界人口70億人突破 食糧危機のホントに迫る」というもの。
冒頭は、氏の「人口が増えても、食糧危機は来ません」という目を引く言葉から始まります。
内容は前回の「デフレの原因は農学にある」をさらに掘り下げたようなもので、興味深かったので
ここに紹介したいと思います。
…記事そのものはちょっと読みづらかったので、分かりやすく、整理して。
まず「人口増加は起きない」とする理由から。
世界人口は2050年頃に90億でピークを迎え、そこから減少に転じる。
減る理由は、貧困国の「工業化」。
最貧国のひとつであるバングラデシュでは、
先進諸国が工場立地を求めて進出してきたため、現在、高度経済成長が始まっている。
人口は農村から都市へと流入しており、工業化された現代社会では女性も社会進出するので
現在先進国で起こっているような晩婚化・少子化がいずれ起こるだろうことが予想される。
次に「食料危機も起きない」とする理由です。
上述のバングラデシュでは、現在米あまりでデフレが起こるほどの事態になっている。
化学肥料と農薬を使った、農業の工業化が進んでいて、収穫量が大幅に増えたためだ。
現代農業では人手を多く必要としないため、高度経済成長で農村から都市へ人口が移動しても、農業は衰退しない。
むしろ農業の工業化で食料供給は安定する。
アフリカではすでに食糧危機が起きているが
政治の混迷で、食料を供給するための「サプライチェーン」が全くないためだ。
政治問題が解決すれば食料問題も改善し、
土地も豊富にあるので農業の現代化で収穫が飛躍的に伸びるだろう。
「食糧危機と人口増加には相関関係がない」とする冒頭の発言は、これらの考察を論拠としているのでしょう。
私は工業化・大規模化する農業に両手を上げて賛成する立場にはないのですが、
川島氏の冷静な分析は見事だと思います。
今回はもうひとつ、日本の話も付け加えてあります。内容のサマリはこんなものです。
高齢化や跡継ぎがいないといった問題で農業が衰退しているのではなく、
「農業人口が多すぎる」ことが問題。
単純作業から順番に人間を機械に置き換えていく方法で農業を推進するのが世界の方向だが、
日本はその時流に乗り遅れてしまった。
今後は日本の食材が海外で「安心・安全」「おいしい」として人気な点を利用して、高い付加価値にし、
総合商社(生産から小売、飲食といった末端のサービスまで統括する)を使って
国際的な食のサプライチェーンをマネジメントして世界に打って出る。
三菱商事とのタイアップ記事のようなので、最後に商社の話が出てきたのだと思いますけど、
なるほど、それもありかなと思いました。
食糧危機の回避には、サプライチェーンをマネジメントすることが必須だからです。
しかしその他の部分は、納得できる部分とできない部分があります。
日本の食材が「おいしい」として人気かどうかは疑問だし、
様々な偽装が問題となっている今、「安心・安全」だとも言い切れないと思います。
日本が世界市場で生き残るためには「安心・安全・おいしい」を付加価値とするしかない。
この点には同意できます。
でも農業の工業化、現代化といっても様々な側面があって、
有機農法だって科学的に分析したり規定化・基準化しようとする動きもあるんです。
「安心・安全・おいしい」というブランドを実現するのは、
化学肥料や農薬、工業化に支えられた現代農業そのものではなく、
農業が地域と密接に繋がって、利益を地域に還元していくことだと思います。
つまり「スロー」な農業の一面もやはり必要だろうということです。
工業化とスロー化、全く相反するようですが、そこはさじ加減だと思います。
農業人口が本当に多すぎるなら、工業化されるはずの部分を意識的に人手に頼ることもできるはずです。
そのためには、国内に今ある「資源」の質を高めることが何より先決です。
消費者と生産者と地域が結びついている。場所が世界市場であっても、
この「循環の輪」ができたときにはじめて、日本の農業が生き残れるという話になるのではないでしょうか?
– 私のブログ6月27日の記事「デフレの原因は農業にある」
– 日経ビジネスONLINE NEXT NIPPON「世界人口70億人突破 食糧危機のホントに迫る」
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