1月24日の朝日新聞(多摩版)に、玉川大学が植物工場の野菜を販売するというニュースが載っていました。
大学の敷地内にLED光源を使って野菜を室内栽培できる植物工場「サイ・テック・ファーム」が完成し、
2月から栽培したレタスを小田急沿線のスーパーで販売するという話です。
小笠原芳明学長は植物工場の野菜に関して、
「雑菌が少なく日持ちも良い。安心安全への期待に応えられる夢のような野菜づくりだ」と言っています。
また開発を担当した渡辺博之・農学部教授は、
「安定していつも旬の野菜を出荷できるメリットがある。植物工場で生産した野菜で収益が上げられれば世界初だ」と。
”LED照明による完全密閉型施設で”収益が上げられれば世界初、ですね。
しかしこの話には少々違和感もあります。
まずは「いつも旬の野菜が出荷できる」という点です。
通常施設栽培では、旬を外すから、つまり一年中いつでも獲れるような状態にするから
付加価値が高いはずなのに。どういう意味で「旬」という言葉を使っているのでしょうか?
年中取れる継続という概念と、一定期間を表す「旬」という言葉の間に、違和感を感じてしまいました。
渡辺教授は、元は三菱化学の研究員で、20年間LED照明による植物栽培の研究をしてきたとのことです。
コストが掛からない照明の冷却方法の開発に成功し、それを活かした今回の植物工場では、5~6年で元がとれるとのこと。
しかし、それでもレタス一株200円だそうです。…それで本当に勝負できるんでしょうか?
私は去年、植物工場に関する講演や展示会に通い、いろいろと情報収集したのですが、
植物工場での本格的な生産には、
1)植物工場向けの品種開発の必要性
2)植物工場固有の病気発生への対応、
3)日々の栽培管理を熟知したベテランの必要性
この3つが重要だということを知りました。
LEDというデバイスを使う、ハード面の専門家である教授が、ソフト面をどう扱っていくのか?
今後の動きには注目していく必要があると思っています。
記事には、教授という名のもとに学生を栽培に参加させる、ということも書いてありました。
これが、単なるコスト削減のためのタダ働きの担い手にするという意味ではないことを祈ります。
しかし、逆の見方をすると、「大学の研究補助金と学生の安い人件費」で、コストを削減する
というのは、実は農業の生き残りモデルになるかもしれないとも思っています。
大学の持つ金銭的な力とマンパワーを地場農業にかせば、それは都市型農業の新しい形になりえます。
すでに、大学と地域の間でそういう連携が始まっているところもあるようです。
学生が参加することで、生産者の高齢化や跡継ぎ問題のうまい解決法になるかもしれないし、
「学農連携」の耕作地は、地域の食の拠点として歓迎されるようになるかも。
植物工場とはまた違った意味で、大学と農業の連携もまた、依然として注目のテーマであることに変わりありません。
– 朝日新聞「LEDが育てる野菜 玉川大に植物工場 東京」
(記事の全文は、朝日新聞デジタル版の有料会員の方しか見られません。ごめんなさい。)
私も長年様々なセミナーや講演会、あるいは実践者に出向いて植物工場に関する情報を集めてきている者です。
ほぼ100%の方々が口をそろえて「儲かりません」と明確におっしゃいます。何度心が折れたか。
でも広く見ていくと黒字になっている工場もあります。
そうやって黒字に?その大半は自家消費可能な企業が運営していましたので、参考にはなりません。
そして一部の工場が小売や卸でしっかり黒字化していました。
肝は、徹底したアイディア戦略。工場の設備をメーカーの言いなりではなく様々なアイディアをもって自分達で改良して生産効率や病気対策などを行っています。
実際自分もコスト試算してみましたが、原価で100円を切るのは難しくないことが分かりました。
但し、いくらで売れるかで1株当たり10円違うだけで天国と地獄にはなります。
私も植物工場専用品種の開発が必要とは聞いていましたが、国内で流通していない野菜の品所はまだまだ沢山あります。
こうした国内の路地やハウスでは生産方法が確立しきっていない野菜を作るだけでもかなりアドバンテージがると感じています。
そして何より私が成功を感じたのは息子の言葉でした。普段野菜を食べないわけではないのですが、野菜を「草」と言って馬鹿にしている愚息が、植物工場で作った野菜をサラダで食べさせたら「うまい」と言ったんです。
今年やります。
コメント頂き有難うございました。
息子さんの一言はインパクトがありますね。
長年情報収集を続けられてきた中でインスピレーションを得たというのは大切なことだと思います。
成功事例では、売り先も確保した中での工場企画ということが重要であることは十分ご承知のことと思います。
価格決定権を持てるかどうかは農業界の課題ではないでしょうか。
植物工場に関しても独自の工夫、改善が必要であることも十分理解できます。
私が長く携わってきたエレクトロニクスの製造業界でも現場の継続的な改善無くして利益体質にはなっていないのが実情でした。
メーカーが提供する設備をただ使うだけでは差別化できません。
コメントを拝見する限りでは何を作るか、どう作るかということの選択肢を持っている立場にいらっしゃる方だと読み取れました。
大きな強みをお持ちと感じました。
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