「食料自給率」がすごく低いってことは、随分長いこと言われてきたことです。
耳にたこができるぐらいです。なのに21世紀の現代になっても、その数字に全然変化がない。
なんとなく、40%という食料自給率に国民は慣れてしまって、別にそれでも生活に支障はないし、特に問題ないんじゃない?なんていう人まで私の周りにはいます。
でも国はちゃんと問題視していたんですよ。その証拠に、「食料自給率」という指標が、「食料自給力」に変わるというんです。
「率」が「力」に変わっています。良くみないと気づかない変化です。
以下、2013年3月13日付の朝日新聞記事からの抜粋です。
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「カロリー重視限界
食料自給率 巨額投入、薄い効果」
熱量(カロリー)でみる「食料自給率」は、国民の食べ物をどれだけ国内でまかなえるかを示す食料安全保障の指標として重視されてきた。
ただ、いくらお金をつぎ込んでも数字は横ばいのままで、政策目標としては限界にきていた。
カロリーの自給率は1965年には73%あったが、98年に40%に下がり、以降ほぼ変化がない。
農水省が自給率の公表カロリーベースを加えたのは87年から。当時、米国が日本の農産物市場の開放を強く求めていた。
市場開放に反対するJA(農協)を中心にカロリーの自給率の向上を求める声が高まった。
93年には自由貿易交渉のウルグアイ・ラウンドが合意に至り、日本も農産物の自由化(関税化)が決まった。これを受けて食料・農業・農村基本法が99年に施行され、自給率の向上に政府が取り組むことが明記され、特にカロリーベースが重視された。
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この「カロリーベース」という考え方には、いくつもの難点や異論が取り沙汰されてきました。
Wikipediaにもよくまとめられていましたが、
たとえばカロリーベースの自給率というのは、分母が国民全体に支給される食品の総カロリー、分子が国産で賄われたカロリーであり、
分母には輸入でまなかった食品も含まれているため、輸入がゼロになれば食料自給率が100%になるという不思議な状態です。
それに、このカロリーベース自給率というのは日本独自の見方であって、外国ではどこもこんな数字は出してない。
また、この算出方法でいくと、食品廃棄が多ければ多いほど食料自給率が低く出るという特性もあり、
食品ロスが多いことで有名な日本は、本当に食料自給率が低いかどうか疑問が残ります。
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主な対策として、減反したコメの耕作地で麦や大豆をつくる転作を進めた。農水省は2007年度には約3300億円、民主党政権の11年度にも約5400億円を投じたが、自給率は上向かなかった。
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いくら米離れが深刻とはいえ、日本には米食文化という伝統があり、それを単にもっとカロリーの高い穀物に変えようというのは安直にもほどがあると思うし、
何より小麦や大豆、トウモロコシなどは輸入品のほうが圧倒的に安い。
TPPへの参加が決まれば、このままではカロリーの自給率はさらに下がるのは目に見えています。それで慌てて新たな指標を出してきたのでしょうか?
そもそも何故カロリーベースの数字が日本だけで採用されているのかということについては、
低い数字を出すことで国民の危機感を煽るための、農水省の戦略ではないのかという見方もあります。
オイルショック時に、輸入に頼っていた石油が途絶えて国民が大パニックに陥ったとか、飢餓を体験した高齢者世代が飽食に危機感を感じたとか
農水省が何故国民の危機案を煽ったかということについては、エモーショナルな理由が強かったという見方もありますが、
同時に発表されている金額ベースの指標だと自給率は70%近くにまで跳ね上がる。そしてこの数字もまた、色々な疑問点がついてまわるわけです。
ということで、食料自給率という考え方そのものを、ちょっと疑ってかかったほうがいいという部分もあると、私は思っています。
そして以下は、別の新聞記事からの抜粋です。
「食料自給力」への変更について今後の展望がよくまとめられています。
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新たな目標で、転作に集中していた予算が、優良農地の確保や若い専業農家の育成にも回しやすくなる。
ただ、これだけで食料安全保障を確保できるかは未知数だ。規制緩和や租税改正なども課題になってきそうだ。
対し食料自給力は、農業の生産力を総合的に把握できるようにする。具体的な目標は今後議論するが、農地の面積、専業農家の数などを検討する。カロリーが低い農作物の生産力も反映される生産額ベースの食料自給率も重視していく。一方、新しい目標を加えることで、政策の効果をよりアピールしやすくするという狙いもある。
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なるほど、「自給力」。これも、分かるような分からないような。上記の抜粋記事で、雰囲気は伝わるでしょうか?
でも私には、なんだかこれ、今まで成果が伸びなかったのは指標が悪かったから、と言ってるようにも聞こえてしまいます。
TPP参加で免れなくなったはずの食料自給率低下への批判を、先手を打って回避しているような…。
ちゃんと現状の農と食に即した、身のある指標になるように、今後も成り行きを注意して見守る必要がありそうです。
「食料自給率」と同じく、この新しい指標を普及させるために、またテレビコマーシャルを使うのかな?そうなれば広告代理店はウハウハでしょうね!
– 朝日新聞「食料自給率から「自給力」重視に 農水省、政策転換へ」(有料記事のため、途中から会員でないと読めなくなります)
– Wikipedia 食料自給率
– 「食料自給率 カロリーベースで39% 生産額ベースだと66%だが」 FOODCOM.NET
– JBPRESS「日本人がこれほど「食料自給率」に怯える理由」
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